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青森地方裁判所 昭和39年(ワ)287号 判決 1967年7月21日

主文

原告の被告らに対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

一、被告らは連帯して原告に対し金百万円およびこれに対する昭和三十九年六月二日から完済まで日歩金五銭の割合による金員の支払をせよ。

二、被告本堂堅蔵は原告に対し金七百三十二万七千四百三十三円および内金六百二十四万一千百四十円に対する昭和三十九年八月二十二日から完済まで日歩五銭の、内金五十七万一千六百九十八円に対する昭和四十年七月八日から完済まで日歩五銭の各割合による金員の支払をせよ。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一、原告は昭和三十九年三月四日に、工藤勇に対し、金百万円を、元本弁済期同年六月一日、利息日歩二銭九厘、期限後の遅延損害金を日歩五銭と定めて貸し、その際被告らおよび本件支払命令相債務者工藤マサは右勇の債務につき連帯保証をした。よつて被告らは連帯して原告に対し右貸付元金百万円およびこれに対する右弁済期の翌日である昭和三十九年六月二日から完済まで約旨の日歩五銭の割合による遅延損害金を連帯保証人として支払う義務がある。

二、原告は、

(一)  昭和三十九年三月三十日に、工藤勇に対し、金七百八十八万七千円を元本弁済期同年四月十日、利息日歩二銭九厘、期限後の損害金を日歩五銭と定めて貸し、その際被告本堂堅蔵および本件支払命令相債務者工藤マサは右勇の債務につき連帯保証をし、

(二)  昭和三十九年三月三十日に、工藤勇に対し、金七十万円を、元本弁済期同年四月十日、利息日歩三銭三厘、期限後の遅延損害金を日歩五銭と定めて貸し、その際被告本堂堅蔵および本件支払命令相債務者工藤マサは右勇の債務につき連帯保証をした。

(三)  しかして、勇、マサ、堅蔵は右(一)につき昭和三十九年四月十一日に元金に対し金八万円、同年八月三日に同様元金に対し五十一万二千三百二十七円、同月二十一日に同様元金に対し金百五万三千五百三十三円を支払い、右(二)につき元金に対し十二万八千三百二円と昭和四十年七月七日までの遅延損害金を支払つたのみである。よつて、被告本堂堅蔵は保証人として原告に対し金七百三十二万七千四百三十三円(その内訳は別紙のとおり)および内金六百二十四万一千百四十円(右(一)の残元金)に対する昭和三十九年八月二十二日から完済まで、又内金五十七万一千六百九十八円(右(二)の残元金)に対する昭和四十年七月八日から完済まで、いずれも約旨による日歩五銭の割合による遅延損害金の支払をする義務がある。

三、右一、二に主張の連帯保証につき被告堅蔵は工藤勇に代理権を授与し、代理人たる同人を通じ原告との間に連帯保証契約を結んだのであるが、仮に本件につき勇に代理権がなかつたとしても、昭和三十三年七月十日工藤勇が株式会社青森銀行から融資をうける際被告堅蔵は勇に代理権を授与し同人を通じ同銀行との間に担保提供者として勇の債務につき抵当権設定契約を締結しているところ、勇は右代理権限をこえ本件につき堅蔵の代理として連帯保証契約を結んだのであり、当時被告堅蔵は長男徳松が青森銀行から借金した際同被告の印鑑、印鑑証明書を徳松に与え、同人を同被告の代理人としておりかつその際本件甲第五号証の印鑑を使用しており、本件連帯保証についても同被告は同号証の印鑑を勇に対して預けおきこれが使用を許していた事情にあるから、本件連帯保証につき原告係員が、勇において被告堅蔵を代理する権限を有しているものと信じかつそう信じるにつき正当の理由を有していたのであるから民法第百十条により被告堅蔵はその責を免れることはできない。

と述べた。

被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因に対する答弁として、「原告主張請求の原因事実中被告らが原告各主張貸借につき連帯保証をしたことは否認する。その余の事実はすべて不知である。又、表見代理の主張については争う。いかなる場合にも工藤勇に代理権限を与えたことはない。もつとも被告徳松が金融をうけるにつき被告堅蔵が担保提供者となつたことその際徳松が堅蔵を代理したことはある。」と答えた。

立証(省略)

理由

一、(一)甲第一、二号証中それぞれ被告竹次郎、同徳松名下の各印影が各同被告らの印をもつて顕出されたこと、同各号証の被告竹次郎名下の印影が成立に争のない甲第三号証の被証明印影と同一であること、甲第一、二号証中被告徳松名下の印影が成立に争のない同第九号証の一の同被告名下の印影、同様甲第十三号証の被証明印影と同一であること、(二)甲第一、二、六号証、同第七号証の一、同第八号証、同第九号証の三、同第十号証の一、同第十一号証、同第十二号証の一の各被告堅蔵名下の印影が成立に争のない同第五号証、同第七号証の四、同第九号証の二の各被証明印影(ただしそれら被証明印影は同被告所持の印顆によるものではない旨同被告において主張している)と同一であることはいずれも当事者間に争がない。

二、然し乍ら、成立に争のない乙第四号証の一の記載、証人工藤勇(第一、二回)、同細川富次郎、同本堂徳松の各証言、被告竹次郎、同堅蔵各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば次の事実を認め得る。

すなわち、工藤男に被告堅蔵の末子で、又被告徳松の七人兄弟のうちの末弟のあいだがらにあり養子にいつて姓が工藤となつたものであるところ、勇は自己の営む金物販売の資金にあてるため融資を金融機関から得ようとしたが他に保証人を必要とするため、昭和三十年二月五日頃被告堅蔵の承諾を得ずほしいままに青森市国道通り所在北谷印判店に依頼して同被告の印鑑を偽造しこれを同被告の印鑑として証明書交付の申請を平内町役場に求めたところ届出印と異るとして断わられたので、勇はさきに届出の印鑑は紛失した旨嘘を述べて同役場係員の指示に従い紛失届と改印届とを提出し、右偽造印を同被告の印として届け出てこれが印鑑証明書の交付を得一方昭和三十九年三月勇は被告竹次郎に対し、信用保証協会から五十万円を借りるから保証人になつてほしいと言つて真実は原告組合から借りるものであることを秘し右趣旨で同被告から同被告印鑑を預り保管し、又一方被告徳松は被告堅蔵と同居し従つて勇にとつても自分の生家であるので勝手を知つている関係から被告徳松の留守中に手提金庫の中から同被告に無断で同被告の印鑑を持ち出し、しかして勇は被告らには無断で同被告らを勇およびその妻工藤マサとともに共同振出人としその住所、氏名を勇において記入しそれぞれ被告らの名下に、右偽造の堅蔵印、預つた竹次郎印、もち出した徳松印を勇においてほしいままに押捺した作成したのが甲第一号証(約束手形)であり、同様被告らには無断で同被告らをマサとともに連帯保証人としその氏名を勇において記入しそれぞれ被告らの名下に右各印を勇において押捺して作成したのが甲第二号証(手形取引約定書)であり、甲第三号証(印鑑証明書)は右預り保管した被告竹次郎の印鑑を同被告に無断利用して勇においてほしいままに同被告の委任状を作成して平内町役場から右甲第一、二号証作成の際に交付をうけたものであること、しかして証人相坂忠の証言によれば甲第九号証の一は被告徳松自身が青森銀行から借金をする際同被告から同銀行に差しいれられたものであることを認めることができる。

証人佐藤俊治は、被告竹次郎は前顕甲第一号証の約手による貸付について保証人になつた旨認めた趣旨の証言をするが、証人細川富次郎の証言、被告竹次郎本人尋問の結果にてらしおよび右証人佐藤俊治の証言によつても原告組合側では同被告には同被告の意思を確めるべく面会はしていないことを却つて推認できることを考え併せれば、同証人の証言から直ちに被告竹次郎が原告主張連帯保証人になつたと速断し難い。しかして、前段認定に反する趣旨の証人工藤マサ、同相坂忠、同佐藤俊治の証言は措信しない。

三、それであるから、前記一、(一)の記載が争いないにかかわらず甲第一ないし第三号証の存在からはいまだ原告主張原告と勇との貸借につき被告竹次郎、同徳松が連帯保証をしたとは断じ難く、他に右連帯保証の存在を認め得る証拠がない。

四、又、甲第一、二号証、同第五、六号証、同第七号証の一、四、同第八号証、同第九号証の二、三、同第十号証の一、同第十一号証、同第十二号証の一のうち各被告堅蔵名下の印影(同第五号証、同第七号証の四、同第九号証の二については各被証明印影)がそれぞれ被告堅蔵所持の印顆によつて顕出されたと認めるに足る証拠はなく、却つて成立に争のない乙第一号証の二、同第二、三号証、証人工藤勇(第一、二回)、同本堂徳松の各証言、被告堅蔵本人尋問の結果を総合しおよび前記二に認定の事実を併せ考えれば、右甲号各証の印影は被告堅蔵所持の印鑑により顕出されおよび証明されたものではなく、勇が偽造した前記被告堅蔵の印鑑により勇によつてほしいままに顕出せしめられて約束手形、手形取引約定書、取引約定書、委任状、手形取引根抵当約定書、追加担保差入書が作成されおよび印鑑証明書の交付を得たものであることおよび被告堅蔵の印鑑は、乙第一号証の二、同第二、三号証に顕出されたそれであることを認め得、これに反する趣旨の証人工藤マサ、同相坂忠、同佐藤俊治の証言は措信し難い。なお、甲第九号証の二の被証明印影と同第九号証の三の被告堅蔵名下の印影とが同一であること争なく、証人相坂忠の証言によれば同各号証が被告堅蔵の委任状、印鑑証明書として株式会社青森銀行に差しいれられたことは認め得るが、この点に関する証人工藤勇(第二回)、同本堂徳松の証言にすなおに耳をかたむけるときは右同号証の各印影が被告堅蔵所持の印顆によるものではないと認めるに不自然ではない。

それであるから、前記一、(二)の記載が争いないけれども、甲第一、二号証、同第五、六号証、同第七号証の一、四、同第八号証、同第十号の一、同第十一号証、同第十二号証の一の存在からはいまだ原告主張原告と勇との貸借につき被告堅蔵が連帯保証をしたとは断じ難く、他に右連帯保証の存在を認め得る証拠はない。

五、原告は又、被告堅蔵の本件連帯保証につき同被告は工藤勇に代理権を授与したと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。そこで、表見代理の主張につき判断する。

ところで原告は、右表見代理の適用につきその基本権限につき、勇が昭和三十三年七月十日訴外株式会社青森銀行から融資をうける際被告堅蔵が担保提供者となりこれが抵当権設定につき勇に授与した代理権をいう旨主張する。然し、右主張の日貸借が存在したことおよびその貸借につき被告堅蔵が代理権を勇に授与したと認めるに足る証拠はない。証人相坂忠の証言によつてもいまだ右主張を認めるに十分ではない。よつて、その余の判断をするまでもなく表見代理の適用の主張は認容し難い。

六、よつて原告と勇との貸借等その余の点につき判断をするまでもなく被告らに対する本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別表)

一、原告主張

1.甲第一、二号証の各被告竹次郎名下の印影と、同第三号証の被証明印影とは同一である。

2.甲第一、二号証、同第九号証の一の各被告徳松名下の印影と、同第十三号証の被証明印影とは同一である。

3.甲第一、二、六号証、同第七号証の一、同第八号証、同第九号証の三、同第十号証の一、同第十一号証、同第十二号証の一の各被告堅蔵名下の印影と、同第五号証、同第七号証の四、同第九号証の二の各被証明印影とは同一である。

4.乙第一号証の二の被証明印影は昭和四十年一月二十日被告堅蔵がした改印届による印鑑によるものであり、右改印前の印鑑により届出でられたものが甲第五号証被証明印影である。

二、被告ら主張

1.右原告主張1.2は認めるが、工藤勇が竹次郎印を冒用したものである。

2.右原告主張3も認めるが、然し、いずれも被告堅蔵所持の印鑑により顕出されたものではない。

3.右原告主張4は、主張の日堅蔵が改印届をしたことは認めるが、甲第五号証の印影は偽造の印鑑によるものである。

(別紙)

左の合計金

1.六百二十四万一千百四十円((一)の残元金)

2.三千九百四十四円((一)の元金に対する昭和三十九年四月十一日の遅延損害金)

3.四十四万四千九百九十九円((一)の元金から内金八万円をひいた残元金七百八十万七千円に対する昭和三十九年四月十二日から同年八月三日までの約旨による日歩金五銭の割合の遅延損害金)

4.六万五千六百五十二円(右3の残元金から内金五十一万二千三百二十七円をひいた残元金七百二十九万四千六百七十三円に対する昭和三十九年八月四日から同月二十一日までの右同様日歩五銭の割合の遅延損害金)

5.五十七万一千六百九十八円((二)の残元金)

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